ヨーロッパを旅していると、ふと驚かされることがあります。
それは、イタリアの中に「別の国」が存在しているという事実。
実は、イタリアの国土の中には、国連加盟のれっきとした独立国家が2つ存在しています。
それが、
- バチカン市国(Vatican City)
- サンマリノ共和国(San Marino)
この記事では、単なる豆知識としてではなく、歴史的な背景からこの2か国の存在理由に迫ります。
なぜイタリアの中に「別の国」があるの?
これらの国々は、「昔からあった小国が偶然残っている」わけではありません。
背後には、宗教・政治・戦争・地形といった複雑な歴史の積み重ねがあるのです。
では、それぞれの国について詳しく見ていきましょう。
① 世界一小さな国【バチカン市国】〜カトリックとイタリア国家の歴史的和解〜
- 面積:約0.44平方キロメートル
- 人口:約800人
- 成立:1929年(ラテラノ条約)
◆ バチカンのルーツは「教皇領」
バチカンの前身は、かつて中世イタリア半島の中心部に広がっていた**教皇領(ちょうこうりょう)**と呼ばれる宗教国家。
8世紀、フランク王国のカール大帝の寄進により設立され、ローマ教皇が政治的にも支配する地域でした。
教皇は宗教だけでなく政治的権力も持つ「国王」のような存在だったのです。
◆ イタリア統一運動と「ローマ問題」
しかし、19世紀になると状況が一変。
イタリア半島はばらばらだった諸国が次々と統一され、1861年にイタリア王国が成立。
そして1870年、ローマも占領され、教皇領は完全に消滅。
ローマ教皇はこれを認めず、バチカン宮殿に閉じこもり、「幽閉状態」に。
この状態は「ローマ問題」と呼ばれ、約60年もの間、イタリア政府と教皇庁の間で対立が続きました。
◆ ラテラノ条約によって独立国家へ
1929年、ムッソリーニ政権下のイタリアと教皇庁が妥協し、**「ラテラノ条約」**を締結。
これにより、バチカン市国の主権と独立が正式に認められたのです。
宗教的な聖地が、国家として国際的に認められる――
その歴史的な背景が、現在の「世界一小さな国」を形作っています。
② 世界最古の共和国【サンマリノ共和国】〜1700年守られた自由の伝統〜
- 面積:約61平方キロメートル
- 人口:約3万人
- 建国:301年(伝承)
◆ 建国の伝説:石工マリヌスの物語
サンマリノの始まりは、4世紀にまで遡ると言われています。
キリスト教徒であった石工**聖マリヌス(San Marinus)**が、ローマ帝国による迫害から逃れ、ティターノ山の上に小さな共同体を作ったのが起源とされます。
この共同体が発展し、やがて**「自由な共和国」**へと変わっていったのです。
◆ なぜ併合されなかったのか?
中世から近世にかけて、イタリア各地では大国が覇権を争う中、サンマリノは常に中立を保ち、**独自の政治体制(選挙制の二人の執政官)**を堅持してきました。
ナポレオン時代には、フランスに併合されることなく、「自由を守る国」としてその存在を尊重されました。
さらに、19世紀のイタリア統一運動の際にも、統一派の英雄ガリバルディに協力しつつも、併合は拒否。これにより、イタリア王国からもその独立が尊重される形となったのです。
◆ 現代にも続く独立の精神
今もサンマリノは、世界でも稀な二人の元首(共同執政官)による統治を維持しており、民主主義と中立性を貫いています。
まさに、**「最古の共和国」**としての誇りと精神が息づく国家です。
まとめ|歴史が生んだ「国中の国」
バチカン市国とサンマリノ共和国。
一見、ただの観光地のように見えるこの2か国は、何世紀にもわたる歴史の中で、自らの「独立」と「アイデンティティ」を守ってきた存在です。
- バチカンは、カトリック世界の精神的中心として
- サンマリノは、自由と中立の象徴として
イタリア旅行に訪れる際は、ぜひこの2か国にも足を伸ばしてみてください。
ただの「小国」ではない、壮大な歴史の物語がそこにあります。
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